夏の午後、細い道を歩いていると、どこからか涼しげな音が聞こえてきた。
ちりん。
少し遅れて、もう一度。
音の先には、古い家が並ぶ静かな通りがあった。軒先には色とりどりの風鈴がつるされ、風が通るたびに、小さな音を重ねていた。
透明なガラスの風鈴。
青い波が描かれた風鈴。
赤い金魚が泳ぐ風鈴。
短冊には、願いごとのような言葉や、夏を迎える短い挨拶が書かれている。
道の上には強い日差しが落ちていたが、風鈴の音を聞いていると、不思議と暑さが少し遠ざかっていくようだった。
道を歩く人たちも、急いではいない。
立ち止まって風鈴を見上げる人。
お気に入りの音を探す人。
子どもの手を引きながら、ゆっくり歩く人。
風鈴の音は一つひとつ違っていた。
高く澄んだ音もあれば、少し低く、やわらかな音もある。たくさん鳴っているのに騒がしくなく、まるで道そのものが静かな歌を奏でているようだった。
やがて風が止まると、通りは急に静かになった。
遠くから蝉の声が聞こえ、軒下の短冊だけが、かすかに揺れている。
そして、また風が来る。
ちりん、ちりん。
風鈴の道は、どこかへ急ぐための道ではないのかもしれない。
少し立ち止まり、風の音を聞くための道。
忘れていた夏の記憶を、そっと思い出すための道。
道の終わりで振り返ると、風鈴はまだ小さく揺れていた。
姿が見えなくなっても、その涼しい音だけは、しばらく心の中に残っていた。
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