夏の朝、まだ町が目を覚ます前に、細い道を歩いていた。
古い木造の家と家のあいだに、青や紫のアサガオが咲いている。
長く伸びたつるは竹の支柱や軒先へ絡みつき、道の上に緑色の屋根を作っていた。
そこはまるで、夏のあいだだけ現れる小さな回廊だった。
葉の隙間から差し込む朝の光が、石畳の上に揺れている。
昨日の夜に降った雨が残っているのか、葉の先には透明な雫が光っていた。
アサガオの花は、どれも同じように見えて少しずつ違う。
深い青色の花。
淡い紫色の花。
白い筋が星のように広がった花。
ひとつずつ眺めながら歩いていると、いつもの短い道が遠くまで続いているように感じられた。
風が吹くたび、葉が重なり合って小さな音を立てる。
その向こうから、まだ姿の見えない蝉の声が聞こえてきた。
夏は暑くて、少し疲れる季節でもある。
けれど、朝の涼しい時間にだけ見つけられる景色がある。
強い日差しが訪れる前に咲き、昼が近づくころには静かに花を閉じてしまうアサガオ。
美しい時間が短いからこそ、もう少しだけここにいたいと思った。
回廊の出口には、明るい青空が広がっている。
振り返ると、無数の花がこちらを見送っているようだった。
来年も同じ場所に、この回廊ができるとは限らない。
つるの伸び方も、咲く花の色も、きっと少しずつ変わってしまう。
だから私は、今朝の景色を忘れないように、ゆっくりと目に焼きつけた。
アサガオの回廊は、何かを急いで手に入れるための道ではない。
立ち止まり、涼しい風を感じ、今日という一日を静かに始めるための道なのかもしれない。
ここまで読んでくれて、ありがとうございます
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