夜の川沿いを歩いていると、空の奥に、いつもより少しやわらかな月が浮かんでいた。
それは真っ赤な月ではなく、薄い桃色と橙色を静かに混ぜたような、やさしい色をしていた。
ストロベリームーン。
名前だけを聞くと、甘い夢のような月を想像してしまうけれど、実際に見上げた夜空の月は、もっと静かで、もっと遠かった。
川の水面には、月の光が細く伸びていた。
風が少し吹くたびに、その光はゆらゆらとほどけ、またすぐに形を戻す。
街灯の黄色い明かりも、橋の影も、ビルの窓明かりも、すべてが月を邪魔しないように、そっと夜の中へ沈んでいた。
昼間の街は、音が多い。
車の音、人の声、信号の音、店の明かり。
けれど夜の川沿いに立つと、そのすべてが遠くなる。
水の流れる音だけが、かすかに耳に届く。
その上に、淡い苺色の月が浮かんでいる。
何か特別なことが起きたわけではない。
誰かと約束をしていたわけでもない。
ただ、いつもの街の上に、いつもと少しだけ違う月が出ている。
それだけで、夜の景色は欲しくなる。
絵でも、写真でも、言葉でもいい。
この静かな光を、どこかに残しておきたくなる。
大きな月は、空の高い場所から街を見下ろしていた。
川沿いの建物は黒い輪郭になり、窓の明かりだけが小さく残っている。
橋の上を通る人影も、車のライトも、月の前ではとても小さく見えた。
その小ささが、なぜか心地よかった。
人の悩みも、忙しさも、焦りも、空に浮かぶ月から見れば、きっと一瞬の水面の揺れのようなものなのかもしれない。
ストロベリームーンの夜景が欲しいと思った。
派手な宝石のような景色ではなく、静かに眺めていたくなる景色。
誰かに自慢するためではなく、疲れた夜にそっと見返したくなるような景色。
川面に映る月明かり。
橋の向こうに続く街の灯り。
雲の縁を淡く染める、やわらかな光。
それらが一枚の夜景になったとき、そこには不思議な安心感があった。
この世界は、毎日少しずつ変わっていく。
楽しい日もあれば、うまくいかない日もある。
けれど、ふと夜空を見上げたとき、こんな月が出ているだけで、まだ大丈夫だと思える瞬間がある。
ストロベリームーンの夜景は、特別な場所にだけあるものではない。
川のそば。
橋の上。
帰り道の途中。
少し立ち止まった人だけが見つけられる、静かなごほうびのような景色なのだと思う。
淡い月明かりが、水面の上で揺れている。
街は眠りはじめている。
それでも月だけは、夜の空で静かに光っている。
あれが欲しい。
ストロベリームーンの夜景を、心の中に一枚、ずっと飾っておきたい。
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