最近、私は「あれ」が欲しい。
具体的に何かと聞かれると少し困るのだけれど、とにかく「あれ」だ。
広告で見た瞬間、心が一歩前に出た。
理性は二歩下がった。
その結果、私はその場で静止した。
欲しい理由は山ほど思いつく。
きっと生活が豊かになる。
きっと毎日が少し楽しくなる。
きっと今の自分より、ほんの少しだけ格上になる。
でも同時に、いらない理由もちゃんと浮かぶ。
なくても困らない。
似たようなものをすでに持っている。
置き場所も微妙だ。
私はスマホの画面を見つめながら、ひとり会議を開く。
議長は欲望。
副議長は理性。
そして書記は、なぜか未来の私。
未来の私は言う。
「たぶん、なくても大丈夫だよ」
今の私は反論する。
「でも、あったらちょっと嬉しいよ?」
このやり取りを何度も繰り返し、最終的に私はこう言う。
「とりあえず、今日は我慢しよう」
そうしてカートからそっと削除する。
まるで恋人に別れを告げるみたいに。
たった数秒の関係だったのに、少し胸が痛む。
不思議なのは、買わなかったことで少し誇らしい気持ちになることだ。
大人になった気がする。
理性が勝った夜は、なぜか部屋が静かに見える。
でも正直に言うと。
明日また見に行くかもしれない。
「あれ」はまだ、そこにあるはずだから。
そして私はきっとまた、同じ会議を開く。
欲しいけど、とりあえず我慢している私。
その繰り返しのなかで、今日も少しだけ自分を観察している。
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